2018年9月14日金曜日

ハワイ 不思議な風のベール

 長女、小学生最後の夏だからと、思い切って初めての家族海外旅行を決行した。
春の、夫からのGoサインをきっかけに、私の楽しい楽しい、旅行準備は始まった。

 ハワイと言えばH.I.S.。とりあえず、初ハワイだし、子連れだし、無難なところで…とパンフレットを漁っていると、なんと子どもは旅行代金半額だというプランを見つけた。実質3人分で旅行出来るのだ。早割や連泊に伴う、細かいサービスもくまなく読み、ホテルの立地、口コミをリサーチして、夫に予算を確認。事務所近くの支店に足を運んで、予約をした。

 新人さんらしい女の子が対応してくれ、気持ちよく契約出来た。母親と行ったという自身のハワイ旅行の経験も話してくれる。その中で、毎日なにかしらのオプショナルツアーに参加したという話が頭に残って、HISでもらったハワイの雑誌をペラペラめくっていると、やりたいこと、行きたい場所が、どんどん増えてくる。結局、7日間の旅行プランで収まりきれないほどのツアー候補が挙がってしまった。自分で簡単な日程表を作り、イメージを膨らます。こんなこと、旅行会社の仕事だろ、そのために旅行会社があるんだろ、という声が聞こえてきそうだが、これが、私は大好きなのだ。

 旅をすると決める⇒どんな街か想像する⇒何がおいしいのか調べる⇒ローカルな楽しみは何があるのか…こうしてまだ見ぬ地のことを考え続けていられる時間が、たまらなく幸せに思える。子どもの頃は、イベント当日が来ることを、今か今かと待っていた。でも今は、どちらかというと、その日が来て欲しくないような、その日が来るまでの、この幸せな日々が、むしろずっと続けばいいとさえ思ってしまう。出発日が訪れたら、旅が終わってしまう日が刻一刻と近づくということなのだ。そしてまた、楽しみのない日常がその後に続いている…大袈裟で贅沢なことだが、いつの頃からかそんな風に考えるようになってしまった。

 さて、ついにその日は来て、大した時差ボケもなく、毎日早朝からアクティビティに出かけて、夜は早々に寝る、というキャンプ場のような生活をハワイで送り、存分に堪能し、帰国した。1週間近く滞在したせいか、帰ってきても日常だったはずの景色が、何か違って見える。辟易していた、日本に猛暑をもたらしている日差しも、喜びに満ちた輝きとして、私に降り注ぐ。緑の木々が鮮やかに目に入ってくる。知っているカフェなのに、特別な場所のように私を誘う…。なんだこれは?と思った。脳が、身体が、すっかりハワイの風に包まれて、まだ魔法にかかったままのようだった。ハワイで最大級に解放された魂は、ストレスを受けない、見えないバリアを得たようだった。

 そういえば、ハワイにいる間、一切の頭痛も動悸も立ちくらみも、なかった。行った人しかわからない、と言われる、ハワイ特有の爽快な風は、私の全ての細胞を元気づけてくれたのかもしれない。帰国してしばらく、広い海で両手両足をなげだして泳いでいる夢を見ていた。ストレスは箱に入ってるようなものだな、と思った。小さな世界で多くの物事といっしょに詰め込まれた箱にいると、どんどん押しつぶされていくような気持ちになるものだ。

 やがて、霧が晴れるように、ハワイの風のベールは一枚一枚はがれていったけれど、今の私は、旅をする前とは少し違っているように思う。まだ身体が軽い。夜、よく眠れる。ハワイがくれた、特別な薬のおかげで、今日もまた頑張れている。そして、次の旅を夢想しながら、私の日常は続く。

がんができて。